政策提言・要望

政策提言・要望

大都市部におけるまちづくりと地域商業活性化政策に対する要望

2003年10月9日
東京商工会議所

 まちの中心部からの人口の流出などにより、中心市街地が衰退の一途を辿っている。現状を打開するため平成10年に、いわゆるまちづくり3法(中心市街地活性化法、改正都市計画法、大規模小売店舗立地法)が公布され、まちづくりと一体となった地域商業活性化において、地域自らによる取り組みが進むことが期待されました。
 しかし、その後も中心市街地の衰退は止まらず、中心市街地の大型店も撤退を始め、商店街を中心とする中心市街地の再生、地域コミュニティの再構築が喫緊の課題となっております。
 東京商工会議所ではこのような現状に鑑み、より多くの地域において、自らの力でまちづくりを行い、その中で地域の実状を踏まえた商業・商店街の活性化を促進する方策について検討してまいりました。
 つきましては、より多くの地域が関係者間の協議をもとに、地方自治体と連携して、自立したまちづくりを行うとともに、地域商業の活性化を図ることのできる政策的基盤を確立するためにも、下記の諸点について特段の措置を講じられますよう強く要望いたします。 

要望



1. 複数の行政区分にまたがる中心市街地活性化の法的整備
 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律(以下、中心市街地活性化法とする。)第2条においては、「相当数の小売業者が集積し、及び都市機能が相当程度集積しており、その存在している市町村の中心としての役割」を持っている地域を中心市街地として指定することになっており、指定にあたっては市町村の裁量に任されている。そのため、東京の大都市部などで見られる、商業集積や地域の連続性が高く、複数の行政区分にまたがって形成されている地域を中心市街地に指定することについての法的根拠はない。
 しかし、行政区分をまたぎ連続性を持った商業集積や地域について、行政区分に固執することは、商業集積機能の分断により、効果的な運営を阻害するなど、地域の実態に即していない。
 ついては、活性化計画の策定にあたり、中心市街地が複数の行政区分にまたがって存在するとそれぞれの自治体が認定した場合、行政間協議会の発足により、一体的な中心市街地活性化を行えるように、法的整備をすべきである。
 また、認定構想推進事業者(以下、TMOとする。)についても、必要に応じて複数の行政区分を超えて活動できるよう、法的に整備すべきである。

2.TMO設立要件の緩和
 TMOとなれる主体は、中心市街地活性化法18条第1項において「商工会、商工会議所又は特定会社若しくは公益法人であって政令で定める要件に該当するもの」とし、さらに同法施行令第8条においては、政令で定める要件として、「特定会社にあってはその発行済株式の総額又は出資金額の百分の三以上が地方公共団体により所有され又は出資されていること、公益法人にあっては財団法人であってその基本財産の額の百分の三以上が地方公共団体により拠出されていることとする。」と定めている。
 そのため、TMOとしての設立要件については、商工会、商工会議所、3セク特定会社、3セク財団法人の4者しか備えていない。
 しかし、現在様々な地域のニーズに応えるべく、まちづくりの中心的な役割を果たしている主体は、商店街振興組合やNPO、株式会社など、まちづくり3法施行以降多様になっており、法自体がまちづくりの現状に追いついていない。
 ついては、法18条第1項において前述4者以外に、「その他中心市街地における中心小売商業高度化事業の総合的な推進を図るのにふさわしい者として政令で定める者」が定められているが、同法施行令を改正し、①商店街振興組合、②特定非営利活動法人、③中間法人、④株式会社、⑤有限会社など、法的保障のある団体を明記し、様々な主体が積極的にまちづくりと商業振興に関わることのできる基盤を整備すべきである。

3.中心市街地基本計画策定地域におけるまちづくり組織への協力義務明記
 中心市街地においてまちづくりを強力に推進するためには、合意形成のための組織基盤の確立が急務である。しかし、現状では、まちづくりや地域商業活性化のための組織への参加は、大型店・全国チェーン加盟店や外資系企業を中心に必ずしも進んでいないのが現状である。
 そのため、少なくとも中心市街地活性化法第6条第2項第2号において定められた中心市街地基本計画策定地域においては、当該地域に存する商工業者・居住者・地権者などの関係者は、当該地域に設立されたTMOやまちづくり協議会等の合意形成機関への協力義務を同法で定め、中心市街地活性化における早期の合意形成を進めるべきである。

4.大型空き店舗活用支援事業の継続的拡充と活用支援策の充実
 経済産業省中小企業庁においては、平成15年度より、中心市街地において目立つ核店舗の空き店舗問題に対応し、大型空き店舗活用支援事業を開始した。同事業は、商業集積によるまちの魅力の低下など、中心市街地の再生にとって欠くべからざる事業であり、今後も継続的に実施されるとともに、必要に応じて柔軟に予算額の拡充を求めていくべきである。
 また、同問題の解決にあたっては、テナントミックス事業の適正な実施のための専門家の育成が不可欠である。平成15年度から同庁においては、「大型閉鎖店舗再生等対策のための総合プロデュース人材育成研修」を実施し、専門的な人材の育成を行っているが、今後も継続的に同研修を実施し、各地域における積極的な取り組みを支援すべきである。
 さらに、今後は、育成された人材を活用するとともに、各経済産業局等を通じ大型空き店舗情報を提供するなど、中心市街地の再生に向けて、積極的な取り組みが成されるべきである。

5.商店街振興組合設立要件の緩和
 これまで、商店街振興組合は、まちづくりと地域商業活性化において重要な役割を担ってきた。しかし、法人化していない組合は、平成12年度東京都中小企業経営白書(小売業編)によれば、全体の69%にものぼり、地方自治体においては法人化にむけての支援を行っている。
 その背景として組合設立要件の厳格性が挙げられる。商店街振興組合法第6条において、商店街振興組合となるには、「小売商業又はサービス業に属する事業を営む30人以上が近接してその事業を営む市(特別区を含む。)の区域に属する地域であって、その大部分に商店街が形成されている」地区で、法第9条にて「組合員たる資格を有する者の3分の2以上が組合員となりかつ総組合員の2分の1以上が小売商業又はサービス業に属する事業を営む者」がおり、かつ、法第34条において「組合員になろうとする7人以上の者が」発起人となることを求めている。
 しかし、商店街振興組合は、商業振興のための機関としてだけでなく、地域のまちづくりを率先して取り組む主体となりうる機能を有しており、事業協同組合と比較し、地域における合意形成において重要な組織基盤である。したがて、設立用件を緩和し、より多くの地域において商店街振興組合が設立される法的基盤を整備するべきである。
 そのため、商店街振興組合法を以下のように改正することを要望する。
(1)「小売業又はサービス業に属する事業を営む30人以上が近接して」については、「小売業又はサービス業に属する事業を営む20人以上が近接して」とするなど、業種・構成人数を緩和する。
(2)「組合員たる資格を有する者の3分の2以上が組合員となり」については、「組合員たる資格を有する者の2分の1以上が組合員となり」とするなど、要件を緩和する。
(3)「組合員になろうとする7人以上の者が」発起人となる要件については、「組合員になろうとする4人以上の者が」とし、中小企業協同組合法や、中小企業団体の組織に関する法律に基づく各種組合の設立要件と同一要件に緩和する。
 
6.商店街イベント実施に係る道路使用許可等行政事務の効率化
 従来より商店街においてイベント等を実施する場合に生じる道路使用許可の行政事務については、所轄警察署長の権限となるため、道路の安全のみにとらわれ許可取得が難しく、地域活性化やまちづくり全体への支援、地域との連携という視点が失われている例が見うけられ、商店街など地域の主催者団体の負担となっている。
 このような現状から、平成14年12月に施行された構造改革特別区域法に基づく地方自治体からの提案募集では、道路使用許可事務の効率化に関する多数の要望が寄せられている。今後、道路の積極的な活用によりまちづくりを進めるため、構造改革特別区域法に基づく警察庁の規制緩和回答について、以下の点を要望し、早急な実現を期待する。

(1) まちづくり交通安全対策事業特区の周知徹底と全国的規制緩和について
 構造改革特区に関する第2次提案募集において、松山市が「歩いて暮らせる街づくり特区」として、「公安委員会に対し、まちづくり交通規制計画を提案し、その意見が尊重される特例」を求め、警察庁は特区において実施する旨回答された。
 回答においては、「地方公共団体が中心市街地の活性化等を図るため、歩行者が安心して通行できる道路交通環境を整備する必要があると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、当該地方公共団体や所轄警察署のほか、地域住民、事業者等からなる地域参加型の協議会が策定した総合的なまちづくりの計画に基づき都道府県警察が交通規制を実施するよう、都道府県警察に対し、発出する。」とし、平成15年8月28日付にて通達「「まちづくり交通安全対策事業」に係る特例措置について」が発出された。
 当該特区の実施は、道路使用とまちづくりの関連性を明確にしたことを評価するとともに、民間主導型のまちづくりを進めていく上で、重要な政策の進展であると理解する。
 警察庁におかれては、今後特区実施の周知を徹底するとともに、地域が自身のまちにおける道路使用により積極的に関わることのできる仕組みづくりを今後も推進すべきである。

(2)イベント等に伴う道路使用許可の円滑化
 立川市、小田原市、多摩市なども道路使用の許可条件の緩和と手続きの簡素化について提案していたが、警察庁においては「地域活性化等を目的とする各種イベント等の実施に伴う道路使用に関し、実施主体と警察や地域住民、道路利用者等との調整・合意形成の円滑化を図るために必要な事項等示した通達を各都道府県警察に対して発出する。」として、全国的な規制緩和を実施する旨回答している。
 警察庁におかれては、同手続きについても、周知を徹底するとともに、まちづくり交通安全対策事業特区と同様に、商工会議所や商店街振興組合など地域活性化において重要な役割を担う事業者や地域団体を合意形成に含めるよう、通達を発出すべきである。

(3)地域参加型道路使用許可手続きの法的整備
 また、前2項の実施によって、地域住民や事業者が参加による道路使用手続きが、地域活性化において意義が明確になった場合には、道路交通法等関連法規を改正し、同内容の法的整備をすべきである。

7.商店一体型住居の建設に対する補助・助成
 中心市街地における衰退の主な原因の1つが、居住人口の流出である。
 このような状況を打開するため、地区計画などにより、ビル低層階を商業施設として入居させるルールづくりを進めている地区もあるが、今後は都心部への人口の回帰を促進する必要があり、住機能だけでなく、あらゆる機能を包含したまちづくりが進められるべきである。
 そのため、①低層部分を商業施設とする建物が、商業施設利用階以外を賃貸・販売を目的とする住居とした場合、②現在営業中の商業施設が、改築により賃貸・販売を目的とする住居を併設した場合、③現在居住している住居の低層階に商業施設を併設した場合については、補助・助成を行うなど促進政策を整備されたい。

8.「まちづくり債」などまちづくり資金調達手法の開発
 平成12年1月に東京商工会議所・日本商工会議所は「苦境を乗り越え地域の新しい共栄を目指すー地域新時代の活性化戦略-」で「『まちづくり債』のように地域住民や企業から直接資金を募るシステムの導入が求められている。」と提言した。
 しかし、現在においても、まちづくりにおける市町村やまちづくり組織の資金調達は困難な状況が続いており、政府においては、地域住民が参加しやすい資金調達手法の調査・研究を行うべきである。
特に、近年発行が増加している「住民参加型ミニ公募債」は、①特定の地域住民へ発売でき、住民の地方自治への参加意欲が高まる、②小規模自治体でも発行できる、③社会資本整備など、地域でのまちづくりに積極的に活用できる、④発行に際しては、現在の総務大臣許可制から2006年度には事前協議制に移行するなど、まちづくりにおいて今後活用が望まれる。

9.地籍調査の積極的継続
 まちづくり事業にあたっては、従来商業者への協力要請に重点がおかれ、必ずしも実際の土地を保有している地権者には向けられることは少なかった。提言でも述べたように、今後、このような現状を見直し、より多くの地権者の協力を得るために、基礎的情報である地籍の確定が求められている。
 特に東京都では、平成2年から行われた国土調査促進特別措置法に基づく第4次国土調査事業十箇年計画終了後の調査で地籍確定が17%に止まっている。
 現在、国土調査促進特別措置法が改正され、新たに第5次国土調査事業十ヵ年計画が閣議決定され、地籍調査が実施されることになっている。今後は、地権者が輻輳していることで地籍確定が特に困難となっている都心部での地籍調査をより積極的に継続し、地籍確定を推進すべきである。

10.低・未利用地の活用策の拡大
 バブル景気時に計画された建設計画の中止等により、大都市圏を中心に低・未利用地が多数発生し、中心市街地の活性化を図るという点で、大きな阻害要因となっている。
 政府においては、平成11年度から「低・未利用地有効活用促進臨時緊急調査」の実施や低・未利用地バンクの整備を行い、低・未利用地の活用を進めてきた。しかし、大規模未利用地の開発は進んでいるが、中心市街地に点在する低・未利用地の活用策については、進展が見えないのが現状といえる。
 今後、まちづくりを進めて行く上で、平成9年に土地有効利用検討会議提言において、「まちづくり協議会の活動等に対する支援を充実する。」としているように、まちづくりを行う機関(まちづくり協議会、TMO、商店街振興組合など)に当該地域内に存する低・未利用地の開発計画を提案させるなど、まちづくりと一体となった低・未利用地活用策の拡大が望まれる。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所