会社法改正のポイント

第3回 中小企業が留意すべき事項

2012年12月17日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2012年10月20日号

「会社法改正のポイント」と題し、中央大学法科大学院 教授 大杉謙一氏がポイントを絞って分かりやすく解説します。(全3回)

 今般の会社法の見直しで大きな注目を集め、かつ中小企業も注意すべきなのが、多重代表訴訟である。「多重代表訴訟」とは、親会社の株主が、子会社の取締役・監査役などを訴えて損害賠償を請求することができる制度である。
 親会社の取締役は子会社の取締役を監督する義務を負うのか、どの程度の義務を求められるのか、法律に規定はない。この点について、子会社の取締役が放任状態にあると疑う学識経験者と、実務では一定の規律は働いていると考えている経済界との対立は大きなものであった。
 最終的には、100%の親子会社関係に限ること(つまり、子会社の株式をすべて親会社が保有している場合に限られる)、重要な子会社に限ることなどの条件付きで、この制度の導入が盛り込まれた。中小企業でもこれらの条件を満たす可能性は皆無ではない。企業経営者は改正法の施行前に一度、自社でこの訴訟が提起される可能性の有無について点検されてはいかがだろうか。
 会社分割についても規制が盛り込まれた。債務負担に苦しむ会社が、会社分割の手法を使って債務を切り離すことは珍しくないが、債権者に不当な損害が生じることを知りながら会社分割を行った場合には、債権者は分割により設立された会社に対して債務の履行を請求することができるように見直された。これは、一部の自称「専門家」が会社分割による倒産回避を指導していたことなど、債権者をないがしろにするような事例が散見されたことが背景にある。
 なお、この見直しは会社分割を利用した事業再生スキームをすべて否定するものではない。事業に将来性があり、かつ事前に主要債権者と十分に交渉して行うのであれば、新しく設立された会社への請求が認められる可能性は低いだろう。
 最後に、監査役の登記について触れたい。多くの中小企業は、監査役は会計監査しか担当しないものとされている。平成18年施行の会社法で、この点は各社の定款によってある程度自由に定めることができるようになったが、その場合の登記について今回の見直しで手当てがされた。おそらく、一定の期日までに監査役の監査の範囲について登記を行うことが、中小企業に求められることになる。関係省庁や商工会議所の広報を見落とさないように注意していただきたい。


著者略歴
大杉謙一(おおすぎ けんいち) 中央大学法科大学院 教授
 東京大学法学部卒業、東京都立大学法学部助教授を経て現職に至る。コーポレート・ガバナンスやベンチャー企業法、事業再生等が主な研究・活動分野である。経済産業省 企業統治研究会、内閣府経済社会総合研究所M&A研究会等の委員も務める。著書には「M&A攻防の最前線―敵対的買収防衛指針(金融財政事情研究会 2005)」、「ケースブック 会社法(共著 弘文堂 2006)」がある。

掲載:東商新聞 2012年10月20日号

以上