働き方改革

第4回 同一労働同一賃金の必要性とハードル

2018年5月22日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2017年9月10日号

政府の「働き方改革実現会議」は、2016年3月に実行計画を決定しました。特に目玉政策とされた「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」の2項目については、かねてからの懸案にも関わらず実現してこなかったテーマです。その必要性や政府の方針、課題、事業主に求められる心構えなどについて解説します。

 働き方改革では、「同一労働同一賃金の実現」も重要課題である。これは、言葉通りにとれば、「同じような仕事をすれば同じような賃金を支払う」という考え方だが、わが国の職場では必ずしも成り立ってこなかった。日本企業の人材活用の仕組みの特徴として、男性現役世代をコアの労働力と考え、通常は長期継続雇用を前提とする「正社員」で雇う。その上で、様々な仕事をさせるとともに、賃金も長期的観点で年功的に支払われてきた。
 一方、女性やシニアの場合は周辺的な位置付けで、有期雇用の「非正規社員」の立場が多い。この場合、短期雇用が前提で仕事の内容も決まっているケースが想定される。正社員と非正規社員で企業が期待する役割や想定される雇用期間も大きく異なり、賃金を比較するのは容易ではないのが実情だ。
 そうした事情を勘案して、今回の取り組みでは、①日本型の人基準の年功賃金や能力給は尊重する、②一企業内での正規・非正規格差の是正を目指す、③賃金のみならず手当なども含めた処遇全体を対象とする、との基本的な考えのもとで、あくまで「日本型」の同一労働同一賃金が目指される。その上で、①労働者が司法判断で救済を受けることのできる根拠を法整備する、②企業に説明責任を求める、③正式なガイドラインを示す、となっている。法整備に当たり、パートタイム労働者、有期労働者、派遣労働者で、現行法制では処遇改善を図るための規定にばらつきがあるため、最も整備が進んでいる「パートタイム労働法」の規定をより明確化した上で、そのレベルに合わせて横串を通すのが基本方針である。
 既公表のガイドライン案では、通勤手当、食事手当、時間外手当の割増率、特殊作業手当などは同一の支給がうたわれ、賞与や役職手当については、同一の貢献や責任には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を求めている。しかし、曖昧な部分が多く、年度内を目途により詳細なものが議論され、示されるとみられる。
 さらに、労働政策審議会の同一労働同一賃金部会の報告では、待遇差が不合理とされるか否か(いわゆる均衡待遇規定)の判断要素として、現行のパートタイム労働法で明記されている「職務内容」「人材活用の仕組み」に加え、新たに「職務の成果」「能力」「経験」が例示として明記される一方、「労使交渉の経緯等が個別事案の事情に応じて含まれうることを明確化すること」が重要だとされている。


説明責任が重要に


 以上を踏まえれば、法改正に備えた事業主の対応として以下の3点が指摘できる。まず第1に、全て欧米型の職務給に転換することを要請しているわけではなく、基本給の考え方を直ちに抜本的に転換する必要はない。その一方で、手当や賞与については、従来以上に公平を意識し、必要に応じて手直しすることが求められよう。
 第2に、企業に説明責任が強く求められることが銘記されるべきである。非正規社員から、正社員との処遇差の説明を求められた場合、待遇差の内容とその根拠を示すことが事業主に義務化される。その意味で、現行制度を維持するにしても、その根拠を改めて確認し、見直しを行う必要はあるだろう。
 第3に、非正規社員も含めた従業員全員とのコミュニケーションを重視することである。待遇差が不合理とされるか否かの判断要素として、労使交渉の経緯が尊重される方向であり、非正規社員の意向を踏まえてきっちりと労働組合などと協議を行うことが、法的にも訴訟を防ぐためにも重要といえる。

 

 




執筆者:山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 調査部長。研究・専門分野は、マクロ経済分析・経済政策・労働経済。

掲載:東商新聞 2017年9月10日号

以上