会頭コメント

会頭コメント

平成12年稲葉会頭年頭所感

平成12年1月1日
東京商工会議所
会頭 稲葉興作

 平成十二年の新春を迎え、謹んでお喜び申しあげます。
 昨年の日本経済は、それまでの戦後最悪ともいえる実質経済成長率が二年連続のマイナスから、政府の累次にわたる経済対策、景気刺激策などにより、政府目標である成長率○・五%を上回り、一部には底入れの兆しが見えつつあるという見方もなされております。
 しかし、企業は依然として設備、雇用、債務の三つの過剰を抱えているうえ、さらに円相場も高値で推移するなど、内外ともに厳しい環境下にあります。とりわけ中小企業を取り巻く経営環境はなお一層、不透明な状況となっております。
 このため、景気を一段と力強い回復軌道に乗せるためには、さらに強力なてこ入れが欠かせません。政府におかれましては昨年十一月、十八兆円の経済新生対策を打ち出し、約七兆円の平成十一年度第二次補正予算を手当いたしました。さらに、昨年末に困難な財政事情の中、一般歳出四十八兆円規模にのぼる精一杯の積極型予算を編成したことを評価したいと存じます。先に成立した補正予算とともに、切れ目のない財政出動を担保していくためにも十二年度予算の早期成立を強く望むものであります。

● 中小企業は「経済の牽引車」の気概を
 政府は中小企業を日本経済の牽引役と捉え、昨秋の臨時国会を「中小企業国会」と位置づけ、中小・ベンチャー企業の育成を柱とした法律、予算など総合的な中小企業支援策を決定しました。なかでも、私が会長を務めております中小企業政策審議会が答申いたしましたとおり、中小企業基本法については、その基本理念を従来の「大企業との格差是正」から、「多様で活力ある独立した中小企業者の育成・発展」とする旨に改正されました。中小企業を経済発展のダイナミズムの源泉として捉え直し、自立した、意欲ある多様な中小企業をそれぞれのニーズに応じてきめ細かく、幅広く支援していこうというもので今後、中小企業が時代の主役となるような環境づくりを目指すものであります。
 東京商工会議所会員の太宗を占める中小企業にとりまして、大変厳しい経済状況下にはありますが、持ち前の機動力、フロンティア精神を発揮して新たな分野に挑戦していく絶好の機会であると思いますし、また、その期待にも応える必要があると思います。環境が整備された後は、「いたずらに官に頼らず、われわれが経済の牽引車になる」との気概をもって企業経営に取り組んでいただきたいと考えます。

● 10万会員体制後の組織運営に英知を傾ける
 さて、先行き見通しの難しい時代にあって、東京商工会議所への期待と役割がますます増大しております。そうした中で、昨年四月の十万会員の達成は、すべての東商関係者が一致協力して取り組んだ努力の成果であり、この場を借りて本支部役員・議員、評議員などをはじめ多くの関係者にあらためて深く感謝いたす次第であります。
 一方で、現下の経済情勢からその後、会員数は一進一退で推移していることも事実です。今後ともこの十万会員体制を安定的に維持していくことが、われわれに課せられた次の課題であります。会員の皆様におかれましては、引き続き新規会員加入に向けてのご協力をお願い申し上げる次第です。また、私どもはそれに応えるべく、十万会員体制下における事業のあり方、組織運営はどうあるべきか。急ぎ英知を傾けながら具体案を見出し、実行に移す決意であります。

● 多化する会員ニーズに応えた事業を展開
 私どもは今年も、企業活力、景気回復を強力に推進することを最優先に、中堅・中小企業の経営環境の整備に注力するとともに、国際経済交流の推進、まちづくりや東京の都市基盤整備に向けて積極的に参画して参りたいと存じます。さらには十万会員体制を生かした会員相互のビジネス交流と会員サービス活動の推進、組織運営への対応などに努め、多様化する会員のニーズに応えた活動を展開していきたいと考えております。
 一昨年春からスタートしました「副会頭・特別顧問と支部役員との懇談会」を通じ、地域の生の意見に真摯(しんし)に耳を傾けて参りました。あらゆる機会を通じ、政府などに中小企業対策の拡充を働きかけ、昨年も「中小企業金融安定化特別保証制度」の十兆円の追加枠や対象者に「創業者」と「新事業の開拓を行う中小ベンチャー企業」が追加されるなど、徐々にではありますが成果をあげています。今年も本部役員と支部役員の連携を図りながら、地域の生の声を政策に反映させ、従前にも増して、政府に強く訴えかけていく所存です。
 国際活動に目を転じますと、平成十三年四月には民間実業人で構成する太平洋経済委員会(PBEC)国際総会が東京で開かれます。こうした多国間経済委員会や二国間経済委員会を通じた国際経済交流活動を展開し、特にアジア太平洋地域における貿易・投資の促進を図って参ります。さらに海外商工会議所、在外日本人商工会議所などとの連携を緊密にし、会員企業、特に中小企業の国際化、ビジネスチャンスの拡大を図っていきたいと考えております。

 以上、年頭にあたり所懐の一端を述べましたが、今年は西暦二〇〇〇年という二十世紀最後の節目の年に当たります。先般、東京商工会議所では、来るべき二十一世紀の「商工会議所活動のあり方」として、地域経済社会の代弁者、コーディネーター、国・地方自治体の事業の受け皿、街づくり推進のリーダーとしての自らの役割を認識して、地域社会の発展に一層貢献すべき、とする提言を発表しました。私どもはこうした役割を肝に銘じ、積極的に果たすべく変革して参る所存でございますので、どうか皆様の一層のご支援・ご協力を心からお願い申し上げます。