会頭コメント

会頭コメント

平成31年年頭所感 「足元の安心」から「将来の安心」へ

2019年1月1日
東京商工会議所

 明けましておめでとうございます
 平成31年の新春を迎え、謹んでお喜び申しあげます 
 
 会員の皆さまにおかれましては、日頃から当所事業に一方ならぬご支援・ご協力を賜り、年頭に当たり厚く御礼申しあげます。

 世界経済は、IMFによれば、2018年の経済成長率はプラス3.7%を維持するものの、19年の見通しはプラス3.9%からプラス3.7%に下方修正されました。これは、主に米国トランプ政権の保護主義的な貿易政策が、米中貿易摩擦などの形で徐々に具体化してきたことなどを反映したものであり、貿易摩擦が今後さらに過激化すれば、さらなる下方修正リスクもないとは言い切れません。

 米中貿易摩擦は、今後交渉の中で部分的な妥協はあり得るのかもしれませんが、単なる貿易摩擦ではなく、安全保障を含めた最新技術の主導権争いに端を発した米中間の覇権争いと捉えるべきであり、従って長く続くことを覚悟すべきだと思います。われわれ経済人は、そのような状況の中でどのように生き残っていくべきかを模索していく必要があります。

 一方、トランプ政権の極めて不安定な政策は、日本に主体的な対応を求めています。米国がTPPからの離脱を決めた後、日本が国際社会で初めて主導的な役割を果たして、残った国々でTPP11を成立させることができ、昨年末には無事発効いたしました。日EU・EPAも、トランプ政権の動きを見てEUが急に熱心となり、署名を経て、日欧の議会において昨年末承認されました。日中関係も中国側の態度に変化があり、両国首脳の相互往来を経て、新たな次元での関係強化が確認された年となりました。

 わが国の国内情勢に目を転じれば、依然として個人消費に力強さを欠くものの、経済が引き続き緩やかな拡大傾向を続ける中で、需給ギャップも一昨年よりプラスに転じ、賃金も上昇を続けており、もはやデフレではない状況に達したといえます。今こそ、人手不足・少子高齢化・低い生産性・地方の疲弊など、わが国の構造的課題の解決に向け、生産性の向上などのサプライサイドの経済政策を推し進めるとともに、社会保障の持続可能性の向上と財政健全化にも取り組むべきであります。昨年秋には安倍総理の3選も決まり、世界に誇るべき安定的な政権運営基盤が整いました。ぜひともアベノミクスをステージアップさせ、「足元の安心」から「将来の安心」により軸足を移した経済財政政策の検討と推進を望みたいと思います。

 内外情勢がこのように大きく変化する中、民間企業も自己変革に取り組まねばなりません。深刻化する人手不足にどう対応していくのか、AI・IoTなどの第4次産業革命における技術革新をどのように活用して自らの生産性を高めていくのか、海外市場を自らの成長にどう結びつけていけばよいのか。不確実・不透明な時代であるからこそ、企業経営者は目の前の課題をむしろチャンスとして前向きに捉え、自ら果敢に挑戦すべき時を迎えています。

 そうした中、われわれ東京商工会議所は、地域の経営者に寄り添いながら、変化の波を新たな成長へとつなげていく動きを後押しする使命があります。まさに、企業の発展が首都・東京の発展に繋がり、そして日本全体の発展に繋がっていくべきであり、創立から140年を経た今こそ、渋沢栄一翁が述べた「公益と私益の両立」の原点に立ち返り、自覚も新たに活動すべきであります。

 私もまた、「中小企業に日本の課題が最も早く押し寄せる故に、中小企業の課題を解決することが日本経済の成長に直結するものだ」との信念の下、本年、東京商工会議所が取り組むべきものとして、以下の課題を掲げ、重点的に取り組んでまいりたいと思います。

 1点目は、「人手不足への対応と生産性向上」に向けた取り組みです。人手不足が中小企業の最大の経営課題となっている今、人材の確保・定着や生産性の向上に最優先に取り組まなくてはなりません。女性・高齢者・外国人など、多様な人材の活用とともに、業務運営の見直しも含めた働き方改革の推進や、ⅠT・IoT、ロボット、AIなど革新的技術の活用を通じて生産性の向上を図っていく必要があります。東京商工会議所としても、経営者の「気づき」を促し、身の丈に合った形でIT・IoTやAIを身近な経営改善に活用いただけるよう、すそ野の広い支援事業を積極的に展開してまいります。

 2点目は、「中小企業の活力強化」と「東京と地方が共に栄える真の地方創生」への取り組みです。これまで現場主義・双方向主義の方針の下、東商23支部・地域を順次訪問し対話させていただいておりましたが、おかげさまで昨年末までに全ての支部を訪問させていただくことができました。人手不足のみならず、生産性向上、地域活性化、事業承継などが多くの支部における共通の課題と受け止めております。とりわけ事業承継については、経営者の高齢化が進む中で喫緊の課題であり、昨年、事業承継税制が抜本拡充されたことをテコに、円滑な事業承継を支援し、価値ある事業の存続を図るとともに、新たな創業を促していかなくてはなりません。それぞれの地域において中核となる企業の存続と新たな創業は、そのまま地域の活性化のみならず、ひいてはわが国の成長にもつながる極めて重要な課題です。東京商工会議所は、国や東京都の支援施策もフル活用させていただき、引き続き円滑な事業承継、創業支援に取り組んでまいります。

 また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催も控えておりますが、これを機にわが国の魅力を世界にさらにアピールし、インバウンドの観光振興などを通じて地域活性化につなげていくとともに、大会期間中の交通円滑化などに向けた諸準備についても、国や都の施策に協力してまいりたいと思います。

 3点目は、本年10月1日に予定されている「消費税率引き上げ」への対応です。消費税率引き上げ前後の需要変動に対する平準化対策に関しては、取引価格への円滑な価格転嫁が大前提であり、そのためには中小事業者への十分な配慮と支援が必要です。また、軽減税率に関しては、導入まで残り1年を切っている中で、昨年9月時点での日本商工会議所の調査によると、多くの事業者が未だ準備に取り掛かっていない状況が明らかになりました。軽減税率は日本として初めての経験となりますので、一刻も早く準備を進めることが必要です。東京商工会議所では、引き続き広報活動や事業者からの相談などに取り組み、事業者の円滑な対応を支援してまいります。

 最後に、昨年、東京商工会議所は創立140周年と新東商ビル竣工という大きな節目を迎え、今後10年の活動理念や行動指針となる「140(意志を)つなぐ 東商ビジョン」を策定いたしました。「変えないもの」として、「社会を変革していこうとする強い意志」「道徳経済合一説」「民の繁栄が国家の繁栄につながる」という渋沢栄一の精神と東京商工会議所の3つのミッションを堅持した上で、「変えていくべきもの」として、人口減少・高齢化による人口構成やライフスタイルの変化、AI・IoTなどのデジタル技術の進化、自然災害等の頻発化などの変化への対応を挙げ、具体的な行動指針として「東商10の挑戦」を掲げました。
 今春には天皇陛下がご譲位され、「平成」が終わり新しい時代の幕開けとなります。新東商ビルという舞台で、8万を超える会員企業の皆さまとの結束をより強固なものとしつつ、10年後の創立150年に向け、初代会頭・渋沢栄一をはじめとする先人実業家たちの意志をつなぎ、東京商工会議所は、新たな行動指針に基づいてさらなる挑戦を進めてまいります。

東京商工会議所 会頭 三村明夫

以上